カスミサンショウウオと生息地の山奥の写真

サンショウウオの一生

シコクハコネサンショウウオの一生

生息環境

徳島県内の深山性サンショウウオは,四国山地の標高千数百メートルに繁る落葉広葉樹の森を流れる渓谷とその周辺に生息している。種類によって生態,習性,生息環境に違いがあるので,生息場所は異なる事が多い。

シコクハコネサンショウウオの生息渓谷は少なく,剣山(標高1955m)の渓谷でも姿を見るのは希である。生息地は黒笠山(1703m)を源流とする渓谷であろう。黒笠山渓谷は,水量が安定し,谷幅が広く,一面が巨岩・岩塊,所々に砂礫が堆積する水溜まりがあり,湿潤な山肌があり,肝心の伏流水がある等自然の環境が生態に適合しているのだろう。

図1 左側雲の下の頂上が白いのが矢筈山(1849m),その右に突出しているのが黒笠山(1703m)

図2 中央の紅葉が黒笠山。一帯は変成岩帯で所々に崖がある。

図3 黒笠山の夏の渓谷。水量もあり岩塊,水溜まりが多い。

平成25年に新種

シコクハコネサンショウウオは,四国ではハコネサンショウウオと呼んでいた。平成24年に黒笠山渓谷の個体を,京都大学の吉川夏彦先生のチームがDNA検査をした結果,本州にいるハコネサンショウウオとは異なる事が判明,新種として認められ「シコクハコネサンショウウオ」と名付けられた。

図4 体色は焦げ茶色から鮮やかな朱色。雄は後肢が太く掌が肥大。後肢を見れば雌雄がわかる。

朱色の体色と黒い爪

サンショウウオは体形も体色も独特であるが,特に,シコクハコネサンショウウオの成体は,細長い体,突出した大きな目,鮮やかな朱色の体色,黒い鋭い爪,櫂の様な長い尾等,目を引く形態をしている。全長は雄は190mm位で尾が長く,雌は180mm位で少し 小さい。雌雄は後肢を見れば一目で判る。

図5 朱色の体色が背側一直線とマダラ模様とがある。後肢の細いのが雌。前後肢の指先には幼生時から先の尖った黒い爪がある。

頑張る産卵生態

3月下旬,山肌には残雪が,水温4度で気温は9度,湿潤な山肌での冬眠から覚める。4月になり水温6~7度以上,気温が10度以上になってくると,成体は互いに連絡し合った様に,流の音がする渓谷の水溜まりに集まってくる。5月になると産卵前の成体は,雌雄が集団で水溜まりに堆積する砂礫層に潜り餌を摂る。水溜まりの砂礫層を掘ると既に腹が太った雌や後肢の膨れた雄が5匹,10匹と朱色の大きい体が飛び出してきて,新発見と興奮した事が忘れられない。野性動物には,それぞれに不思議な感性がある。サンショウウオもしかりで,その一つが産卵場所選びである。6月上旬,梅雨入り前で水量は少なくなった渓谷を,上流に吹き出ている1ヵ所の伏流水を探し当てて,その奥に潜入し産卵するのである。伏流水の水量は直径100mm位のパイプから吹き出す位の少ない量,山際の岩塊の下側から本流に直角に吹き出している。本流と伏流水の水温差は約1度。何を頼りに探し当てるのか,数百メートル下流の砂礫層から小さな滝を幾つも遡上し,唯1ヵ所しかない伏流水を探し当てるのが不思議である。伏流水を探し当てると伏流水の流れを遡り,吹き出し口から約2メートル奥に入った木の根や岩片が重なり伏流水で満たされた光の全く無い場所に産卵する。渓谷本流は梅雨や台風シーズンには洪水状態になる事は屡々であるが,伏流水内は年中平穏であり卵は安全,動物に食べられる事等は絶対に無い。見つかりにくく,条件の良い場所で産卵するシコクハコネサンショウウオに感動した。

図6 向かって左上のカツラの大木の下の岸部辺りに伏流水が吹き出している

図7 岸に石垣の様に岩塊がある下から,流が少し白く見えるのが伏流水。入梅雨前で本流の水量が少なくなっていたので伏流水の流出が判った。

卵と孵化

産卵は,1匹が2本の「卵のう」を産む。「卵のう」は一端を岩塊に付着し流に靡いている。一本の「卵のう」の長さは約55mm,その中に卵膜に包まれた直径5mmの卵が約10個一列に詰まっている。一度の産卵で20匹の赤ちゃんが産まれてくる。産卵は6月一杯続く。産卵時には雌雄の指先の鋭い黒い爪は自然に抜け落ちるのか,全て無くなっている。爪先が鋭いだけに集団活動で卵やお互いの体を傷つけないためだろうが,素晴らしい習性に感心する。卵が孵化するのは台風シーズンが終わる10月中旬頃である。伏流水の奥から本流に泳ぎ出ても,洪水で流される心配は無い。これも,産卵場所見つけの習性と共に種族を護る素晴らしい生態である。また,孵化の方法も合理的である。他のサンショウウオは、「卵のう」の端が溶け、その1ヵ所の穴から次々と泳ぎ出るが、シコクハコネサンショウウオは個々で卵幕,卵のう膜を破り穴を開けて泳ぎ出る。発生には速い遅いがあるので,この方法は極めて安全で合理的である。

図8 1匹が2本の「卵のう」を産む。約10個の卵が一列に詰まっている。

図9 生長すると,その1匹だけが卵膜,卵のう膜を破り流に泳ぎ出る。

図10 産卵時には雌雄共鋭い先の尖った黒い爪は自然と抜け落ちる。

協力で明らかになった生態

京大の吉川先生,吾橋の徳善さんや仁尾さん,一宇の藤原氏,次男の康治や家族の温かい協力があったから産卵場所の特定が出来たので,その場所を変化がないよう保存し,定期的に卵の発生や成体の様子を観察してきた。卵を発見してから発生や生態観察に登った回数も数十回。山深で,道が遠く,岩場や危険な所が多く,毎回,山に詳しい吾橋中学校の教え子,徳善政明さんが同行協力してくれ,黒笠山の谷の現場で観察を続ける事が出来た。

図11 生態解明は徳善さん協力のお陰。

図12 徳善さんが作ってくれた網の箱に卵を入れ,流の中に沈め変化を調べてきた。

図13 定期的に現地に登り,観察箱内の発生状況等を調査。

幼生の生き方

孵化した幼生は全長28mm位,前後肢もなく弱々しい,お腹の大きな卵黄と,尾のヒレが目を引く。伏流水の奥深くで孵化した幼生は,洪水の心配が無くなった11月,本流へ泳ぎ出る。数千匹の孵化幼生は吹き出し口下流の砂礫層の中で冬を越し6月まで過ごす。狭い砂礫層内に集団でいても腹卵黄があるので餌の心配はいらない。腹卵黄を栄養に生長,孵化して10日すると前肢と4本の指に黒い爪ができ50日後には後肢も完成し全長35mmに生長。そして,自力で餌を摂らなければならなくなる6月,丁度その頃梅雨になり増水で流れが激しくなってくる。その増水に合わせて砂礫層に潜っていた幼生達は流に泳ぎ出て下流へと移動し,新しい水溜まりで洪水時に耐えられる本格的な活動がはじまる。空になった砂礫層には,また,11月頃新しく孵化した幼生達がやって来る。幼生は毎年同じ過程を経て逞しい体に生長していく。

図14 孵化直後。大きな卵黄,前後肢なし。

図15 全長約28mm。10月頃に孵化する。

長い幼生期間

巨岩・岩塊が一面の渓谷には、砂礫層が堆積した水溜りが階段状にある。水溜りには腐食した落ち葉や木の実等が堆積し水棲動物が多く集まっている。幼生の数は上流部には多く下流になるほど3匹,5匹と少なくなり,生息範囲は数百メートルに及んでいる。幼生である期間は3年間と長い。餌も豊かであるのに他のサンショウウオの3倍~8倍の長さである。肺が無く、終生皮膚呼吸と鰓呼吸なので体の造りが大変なのだろうか,また,急流生活であるので,適応出来る体力をつけるためなのか,水溜りの礫層内生活は安全度が高いためだからか,何か理由があるはずである。3年間の幼生期間も種族を護る優れた生態であると思う。孵化して1年すると全長は48mm~55mmに生長,2年目には73mm~78mmに伸び,頭が角張り大きくなり,黒灰色であった体色が頭は焦げ茶色で体は朱色の虎模様に変わり逞しくなる。そして孵化して3回冬を越した3年目の夏に変態をする。8月21日,変態したばかりは,全長100mm,頭の格好も朱色の体色も成体そっくりである。孵化時は全長28mm,体幅3mmであった体も約3年間で全長100mm,体幅10mmと約3倍に伸長し成体に仲間入りである。幼生には遡上能力は無いが,成体になると上流を目指し遡る。

図16 多くの卵が孵化して6ケ月。出口本流の砂礫層で過ごしている幼生の群。

図17 分散した幼生の活動拠点である下流に点在する水溜まり。

図18 梅雨の増水に乗って,下流水溜まりに分散した幼生。

図19 孵化2年目の幼生。頭部や体色が変わって来る。

図20 孵化3年目。変態期。

図21 孵化して1年目,2年目,3年目の幼生。

図22 3年目の夏に変態する。全長約100mm。

環境と共に生きるサンショウウオ

伏流水内で孵化した数千匹の幼生が,一人前の成体になれるのは何%だろうか。素晴らしい習性・生態を持ちながら,大自然の中で生きる事の厳しさも実感している。

成体は遡上能力は抜群,岩等の垂直面を昇る事も出来き自由に移動する事が可能である。山肌での活動も可能で皮膚が湿ってさえいれば長時間過ごす事が出来る。コケや落ち葉の下で体を丸めている場面はよく見てきた。深山の環境と共に生きるサンショウウオの生態は素晴らしい。生長グラフで推測すると孵化して10年すると産卵出来る体になると考える。黒笠山の自然が永遠に続いて欲しいと願っている。

令和元年 6月 記

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