カスミサンショウウオと生息地の山奥の写真

ツルギサンショウウオの産卵場所

四国山地の深山渓谷に生息する3種類のサンショウウオの産卵場所と卵の発見は難しい。特に、シコクハコネサンショウウオとツルギサンショウウオの産卵場所と卵の発見は難しく、四国山地で産卵場所を見た人は数える程しかいないのでないだろうか。その理由は、四国山地深山には渓谷数は多く、シコクハコネサンショウウオとツルギサンショウウオの生息地は少なく限られている上に、極めて安全合理的な産卵生態を持っているからである。

幸運にも、平成24年6月にはシコクハコネサンショウウオ産卵場所を、令和5年6月にツルギサンショウウオの産卵場所を見つけることが出来た。知る事が出来た大きな理由は、何と言ってもサンショウウオの生態調査を支援協力してくれる教え子やサンショウウオ生態に関心のある同好者、研究者のあたたかい協力のお陰であり、単独では絶対に発見は不可能、深く感謝をしている。

ツルギサンショウウオの産卵場所発見は、令和5年6月10日、三好市東祖谷山の深山で発見することが出来た。昨年、剣山の渓谷内で産卵場所に違いない所を突き止める事が出来た、しかし、残念ながら危険なため調査を中止した。以来、教え子の徳善政明氏が中心となり高知市動物園の渡部 孝氏、吉川貴臣氏と協議を重ね、剣山の渓谷調査を断念し、新しく東祖谷山の深山で落葉広葉樹内を流れるサンショウウオが生息する渓谷を探し当て、ツルギサンショウウオの産卵場所の発見に挑戦する事になった。

その産卵場所発見の様子等を報告したい。調査場所は標高約1500m、傾斜の急な山肌斜面にはブナ、ミズナラ等の大木が茂る原生林で、稜線の間を小さな渓谷が流れている。その渓谷に沿って上流へ上流へと登り、山頂下の約50m先が源流である渓谷地点を中心に観察する事にした。渓谷の幅は3~4m位、渓谷内には大小の苔むす岩塊が点在、サッカーボール大の岩塊や握りこぶし大の石が一面、その谷幅一面に少量の水が幾筋も流れ下っていた。谷の左右の山肌は一抱え位の苔生す岩塊が一面で、いかにもツルギサンショウウオが生息しそうな環境であった。4人で相談しながら調査場所を探した。渓谷内に埋もれた岩塊周辺には予想通りイシヅチサンショウウオの卵が産み付けられていた。更に周辺でイシヅチサンショウウオの卵と成体を数か所で見つける事が出来た。

その場所は源流の近くで谷の傾斜や堆積している岩塊の状態や水の流れから、何となくツルギサンショウウオの産卵場所があるに違いないと感じた。4人が相談を重ね、こぶし大の岩塊を取り除きガレ場の底を流れる伏流水の有無を確認しながら岩塊の下面を調べていった。吉川氏と徳善氏が若しかしてと声をあげた。埋もれる岩板の裏側でツルギサンショウウオの卵を発見したのである。ツルギサンショウウオは重なる大小の岩塊の隙間を潜り、伏流水の流れを伝い底深くに侵入、まったく光の無い谷底で産卵出来る空間を探し当てていたのである。岩の下側には胚の発生段階が異なる5匹分の卵が産みつけられていた。そして、すぐ横には雌の成体がいた。

ツルギサンショウウオの産卵場所は源流の近く、大小の岩石が堆積する水量の少ない谷の底であった。大雨が続き増水しても、表面の岩塊は流されても、下に埋もれる岩は動かされないに違いない。ツルギサンショウウオの産卵場所は地表では判らない谷底の伏流水に囲まれた岩の下面であった。喜び驚き興奮、代わり代りに谷に顔をすり着け喜び合った。視野にある卵は約51匹が数えられた。元気に生長してほしいと願った。

発見が極めて難しい二種類のサンショウウオの産卵場所を発見することができた大きな理由は、教え子と同好者のグループによる温かい協力のお陰であり、お互いの長年に渡る生態調査の体験や探求心の結果であったと思う。

それにしても、豪雨時でも流されない、いろんな動物にも気づかれない、伏流水に洗われている安全な場所を探り当てる産卵習性は実に見事。自然そのものが美しく、澄んで清らかな水の中、人間も立ち入らない場所。地質時代から生き続けているサンショウウオの生態の素晴らしさを改めて強く感じた。見事な生態を知るにつけ、生きた化石と言われるサンショウウオが、種族が絶える事なく生き続けてほしいと願っている。

令和5年6月 記

図1 渓谷はブナ、ミズナラ等の落葉広葉樹原生林内を流れている。

図2 大小の岩塊が堆積する渓谷で産卵しそうな場所の相談をする渡部氏、吉川氏、徳善氏。

図3 渓谷の左右山肌には苔生す大小の岩塊が広がっている。

図4 ガレ場の底に埋もれていた、かなり大きな岩塊の下側に産み着けている卵。

図5 卵の横にいた雌の成体。多分、卵を護っていたのに違いない。